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阿佐ヶ谷の街に住むようになった頃、仕事も忙しくストレスだったのか、自律神経失調になり仕事を休業してほとんど1年寝て過ごした。
そんな時、リチャード・ブローティガンの小説をよく読んだ。中でも”西瓜糖の日々”という作品にはとても心惹かれた。
少しずつ調子が戻り、欅の並木をゆっくりゆっくり散歩出来るようになったある日「西瓜糖」と言う名のクールなカフェを発見した。誘われるようにガラス張りの入り口を入ると厚いプラパネルの四角柱のオブジェのようなのがデンと突っ立っている。これだけでもカッコイイ。その上部は乳白色で中に照明が設えてありうっすら明るく真ん中に四角い穴が空いている。下の黒い部分は左右が本棚になっていた。主に美術書が置いてあった。 カフェテーブルはステンレス。流れている音楽も、展示されている現代アートも、壁の色も全てが好きな世界だった。 ある日、店主に聞いてみた。 「この西瓜糖という名前はリチャード・ブローティガンの”西瓜糖の日々”と関係があるのですか?」 「そうなんです。あの西瓜糖からいただきました」 私の中で、ステンレスのテーブル、壁の色、床、全ての質感があの小説の中の世界とほぼ一致していた。 特にステンレスのテーブルは”水瓜糖の日々”の本の中でイメージした甘く冷たい色に近くて肘をつくと、ひんやりして気持ち良かった。 私はリハビリがてら毎日通い、美味しいコーヒーを飲み、肘をつき、本棚から美術書など引っ張り出して見て過ごした。 欅の葉の茂る頃は違う世界にいるようだった。 そのうち最初の店主が銀座で現代アートの画廊をやることになり、店主の友人である今のオーナーに「このままの形で受け継いでほしい」ということを条件に譲った。 それから15年経った。体調も回復して少しずつ足が遠のいて、たまに通りがかりに行く程になった。 学生や若者の現代アートを応援し続けて、壁は無料で貸し出し、常に新しい芸術が店の壁を、ある時は店自身を飾ってきた。 「西瓜糖」が今日閉まる、と聞いて、明日からあの景色がなくなると思うとたまらなくなって最後のコーヒーを飲みにお店へ行った。 「西瓜糖ブレンド」は変わらず美味しくてソーサーにはお決まりのピスタチオが1個添えられていた。ステンレスのテーブルにもコーヒーの面にも若葉がひらき始めた欅並木を映していた。 お店が出来ておよそ30年。今日「西瓜糖」は閉まった。 辛かった時期をずいぶん癒してもらった。 最近はシャレた店がたくさんあるけれど、これほど情熱的に頑固なまでの美的ポリシーを貫き通したカフェは少ないと思う。若き芸術家たちを支え続けて来た素晴らしいお店だった。 前の店主の友人の今の店主は見事に後を次ぎ、そのポリシーを変えることなく、身を削って経営してきた。「とても残念です」と言うと「もう、ぎりぎりでした」と少し潤んだ目で言われ「ありがとうございました。おつかれさまでした」と言うのがいっぱいだった。寂しさと感謝で胸が熱くなった。 「西瓜糖」長い間、ありがとう!
by naomieux
| 2008-03-24 17:33
| 雑記
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